人が死なない防災

人が死なない防災 (集英社新書)

人が死なない防災 (集英社新書)

以下、引用

【pp.60-61】
まず、ハザードマップを配ります。子どもたちの反応は、大方の大人たちの反応と一緒です。地図上で自分の家を見つけて、「ああよかった、おれんちセーフ。おまえんちは? おまえんちアウト」。セーフだアウトだ、と大騒ぎです。
ひとしきり大騒ぎした後で、私は子どもたちに問いかけます。「なあ、君の家はほんとにセーフなのか?」 そうすると、子どもたちは答えます。「だって、(浸水想定区域の)色ついてないもん」。
(中略)
「でもな、この色って、どうやってつけたんだっけ。明治三陸津波がもう一回来たらこうなりますよ、っていう意味だよな。じゃあ、この次の津波明治三陸津波なのか?」

【p.89】
最初にこんなことをやりました、子どもたちに、アンケート調査をします。
「家に一人でいるときに、大きな地震がありました。あなたならどうしますか?」
子どもたちの回答を見ると、「お母さんに電話する」「家族の人が帰ってくるのを待つ」というものが多くありました。この結果を、それぞれの家へ持って帰らせたのです。そこに「お母さんへ」というアンケートを付けました。
「お子さんの回答をご覧になって、お子さんが津波に遭遇したとき、無事に避難することができると思いましたか?」


津波による被害者数のシミュレーション――

  • ケース1: 防災無線・テレビ・口頭伝達など(電話は不通の想定)で津波情報を得てから20分後に避難を開始した場合、3200人
  • ケース2: 津波情報を得てから10分後に避難を開始した場合、130人
  • ケース3: 津波情報を得てただちに避難を開始した場合、20人
  • ケース4: 津波情報の入手を待たず、地震発生から5分後に直ちに避難を開始した場合、0人

という想定結果を提示された上で、

【p.194】
そこから住民たちの具体的な悩みが始まります。
「うちにはじいさんもいるし、ばあさんもいる。5分で全員一斉に逃げるなんて、無理じゃないか」と言われると、答えようがありません。「行政はどう考えるのだ」と言われても、「行政がどう考えようと、津波は10分で遡上が始まるわけですし、5分(※)でその場から移動しない限り津波の犠牲になってしまう。この事実は変わりません」と話します。

(※引用者注:本文中でシミュレーションが行われた地域・条件では「5分」以内の避難開始が有効であったが、もちろん、その他の地域・その他の条件においてはこの限りでない。)